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東京地方裁判所 昭和43年(むのイ)652号 決定

主文

本件原裁判をいずれも取消す。

本件各勾留請求を却下する。

理由

一、本件各準抗告の申立の趣旨及び理由は、弁護人作成の各申立書のとおりであるから、いずれもこれを引用する。

二、当裁判所は一三件にのぼる一連の準抗告申立を受理し、関係記録の送付をうけて、それぞれ個別に原裁判の当否を審査したところ、申立の理由はほぼ同趣旨であり、当裁判所の理由とするところも結局同一に帰着するので、以下便宜総括的にその理由を述べる。

三、それぞれ関係の現行犯人逮捕手続書、同捜索差押調書、各被疑者の顔写真、関係の現認報告書、逮捕者の検察官に対する供述調書、現場写真撮影報告書等によれば、各被疑者がそれぞれ勾留状記載の罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由があると認められるほか、本件無届の集団示威運動の規模や集団的公務執行妨害行為の状況等各被疑事実の背景的事実の概要もほぼこれを認めることができる。

よって、原裁判の主な理由となっている罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由の有無について考えてみるに、各被疑者の犯罪の嫌疑が認められる資料は、前示のような司法警察職員の作成にかかる証拠書類等であって、被疑者らがこれに働きかけて証拠の隠滅をはかる虞れはないと認められる。

もっとも、被疑者はいずれも裁判官の勾留質問に対しても、その氏名、年令、職業、住居等被疑者を特定するに必要な事項のほかは、被疑事実等に関してすべて黙秘ないし否認しているので、本件無届の集団行動や集団的公務執行妨害行為を事前に若しくは現場において共謀した日時、場所、指導的立場にあった者の氏名等共謀の有無、態様は現在審かにできない。

しかし、事案の性質上、これらの点について本件各被疑者はもとより、それ以外の被逮捕者や関係者らから得られる供述にも限度があると思われ、結局、既に収集された証拠を含めて認められる外形的な事実、情況等から右の諸点をも確定してゆかざるをえないと考えられる。右に加えて、本件各被疑者以外の被逮捕者中には、ある程度事実について述べている者もいるけれども、それらの者も、中心的な存在とは認めがたく、共謀の経緯、内容等についてほとんど知らないことが窺われるのであり、検察官が起訴不起訴等の処分を決するため今後証拠収集をするにあたり、本件各被疑者を勾留しておかなければ、それがため罪証を隠滅されて適正な証拠の収集に支障を及ぼすものとはとうてい認められない。

四、本件各被疑者には、いずれも定まった住居があり、次に述べる被疑者神村及び同鈴木を除き、いずれも一件資料上逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとは認められない。

被疑者神村は、勾留質問の際裁判官に対し、本籍、住居、職業、生年月日について述べ、それ以前の昭和四三年九月八日付司法警察員作成の住居確認報告書によれば、右の住居に同二八年四月より母及び弟と居住していることが確認されており、弁護人から身柄引受書も提出されているのであるから、被疑事実について黙秘し、前に、同四三年七月二一日公務執行妨害容疑で逮捕され同年八月三一日不起訴処分になった事実があるからといって、他に特段の事情も一件資料上見当らない本件においては、直ちに逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとはいえない。

また、被疑者鈴木は、勾留質問の際裁判官に対し、本籍、住居、職業、生年月日について述べ、当庁刑事第一四部福島近作成の電話聴取書によれば、真実表記本籍地に現住していることが認められるうえ、弁護人から身柄引受書も提出されていることを考慮すると、他に特段の事情の認められない本件においては、直ちに逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとはいえない。

五、右に述べたとおり、本件各被疑者については、いずれも刑事訴訟法六〇条一項各号の事由が認められず、本件各準抗告の申立は、いずれも理由があるので、同法四三二条、四二六条二項により主文のとおり決定する。

なお、接見等禁止決定のある部分については、右のように勾留請求を却下するので、勾留を前提とする接見禁止等の請求についてもいずれも却下することになる。

(裁判長裁判官 寺尾正二 裁判官 生島三助 竜岡資晃)

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